日本企業復活の鍵は「評価が中くらいの普通社員」ベリングポイントが人材活性化策

» 2008年11月26日 00時00分 公開
[垣内郁栄,@IT]

 「いまの日本企業では“普通社員”の活性化が極めて重要だ」。ベリングポイントの執行役員 HRMソリューション統括 マネージング ディレクターの吉田健之氏は11月26日に同社が開催した人材マネジメントについての説明会でこう述べた。社員の高い忠誠心、一体感を誇ってきた日本企業だが、世界的な競争激化で、閉塞感や疲弊感、やらされ感を感じる社員が増加。吉田氏は「人材マネジメントはもう待ったなしだ」と訴える。

 ここでいう普通社員とは「評価が中くらいの社員」(吉田氏)。一般社員や課長、部長にも普通社員はいて、ほとんどの会社で社員の大多数を占めている。上昇志向の強いハイパフォーマンス社員、やる気が低いローパフォーマンス社員の間で目立たないことが多いが、指示があれば優秀な働きを見せる。吉田氏は「日本企業の強みは普通社員のパフォーマンスの高さであった」と高く評価する。

ベリングポイントの執行役員 HRMソリューション統括 マネージング ディレクターの吉田健之氏

 しかし、欧米企業との厳しい競争にさらされた企業は成果主義に代表される「アングロサクソン型人材マネジメント」を導入。短期で成果を上げることを求められ、OJTが少なくなったり、フラットな組織で現場のマネージャクラスに過度な負担がかかるようになるなど、「日本企業の人材マネジメントは不安定になった」(ベリングポイント 組織・人事戦略チーム マネージャー 三城雄児氏)。日本企業がお手本にしたアングロサクソン型人材マネジメント自体も、欧米で見直しの機運が高まるなど、「日本企業は元来の普通社員の強みに注目した日本独自の人材マネジメントのあり方を追求すべき」と三城氏は強調する。

 ただ、人事部門がリードして新しい人事制度を導入しようとしてもうまくいかないと三城氏はいう。成果主義など上からの制度導入に普通社員は辟易しているからだ。「現場の普通社員が肌を持って実感できるような現場マネジメントの改革が重要」(三城氏)。

ベリングポイント 組織・人事戦略チーム マネージャー 三城雄児氏

 ベリングポイントは普通社員に注目した人材マネジメントの仕掛けとして3つを提唱している。1つは「マネジメントの多元化」。1人の上司が複数の部下を評価する一元的な管理ではなく、上司だけではなく、別の部署の人や同僚など複数の人がその人を評価する形だ。それによって被評価者の多様性をすくい上げることができる。評価者はフラットな組織では難しい上司の役割を擬似的に果たし、部下を評価する経験を積める。三城氏は「目指すのは隣のおじさんがしかってくれる下町型の組織」と話した。

 もう1つは「ダイバーシティ&インクルージョン」の仕掛け。ダイバーシティ(多様性)を認める取り組みは日本企業の多くが始めているが、さらに三城氏は共通の価値観を持つことで普通社員の一体感を育てるインクルージョン(一体性)がこれからは求められると指摘する。「共感を生むメッセージで組織の求心力を強化できる」(同氏)。三城氏が担当する顧客企業では、成果を上げるハイパフォーマンス社員ではなく、地道にがんばっている社内の普通社員にキャリアを語らせることでほかの普通社員の共感を呼ぶことを狙っているという。

 3つ目は人事部の役割変化だ。一般的にこれまでの人事部は「秘密主義・前例主義・権威主義」。しかし、現場に変革をもたらすには「オープン・現場ニーズ対応・双方向コミュニケーション」が必須になる。重要になるのは現場への「社内マーケティング」だ。「こう決まったのでこうしてください」と新しい人事制度を現場に押しつけるのではなく、「知りたい要求をかき立てて、そこに情報を送り込む」(同氏)というマーケティング活動が求められるという。

 三城氏は顧客企業向けに「社内CM」を何度も作成したことがあるという。作成した社内CMは社員のPCに配信する。「ITや映像を用いたコーポ―レートコミュニケーションチャンネルを拡充すれば、社内のマス向けコミュニケーション力を強化でき、あらゆる施策の浸透が容易になる」。また、新しい制度に前向きな“伝道師”役の社員を現場で探し、ほかの普通社員にも自然に新制度が浸透するようにする。少ない人事部員が全社員を担当するよりも、効率的に情報を伝えることができる。三城氏は「人事部はチェンジマネジメント部隊として企業の改革に積極的に取り組む必要がある」と話した。

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